高校生起業のメタバース高校と就活革命が、日本教育に新潮流を生んでいます。
2025年、日本の教育界に新たな波が押し寄せている。メタバース技術を活用した革新的な教育システムが相次いで登場し、従来の教育の常識を覆そうとしているのだ。17歳の現役高校生が起業した日本初のメタバース高校「MVP高等学園」が2026年4月の開校を発表し、同時に高校生の就職活動においてもメタバース空間での合同企業説明会が本格スタートした。売り手市場で求人倍率4.10倍という過去最高を記録する一方で、約6人に1人が1年以内に辞めている現実に対し、メタバース技術が新たな解決策を提示している。
Blendix株式会社の代表取締役・松田峻一氏は、現役高校生でありながら2026年4月に「MVP高等学園」の開校を実現させようとしている。同氏がメタバース事業に関心を持ったきっかけは、中学時代のコロナ禍での経験だった。リアルでのコミュニケーションが難しくなったことから、メタバースなどの3D空間でのコミュニケーションに興味を持ちはじめ、今回のメタバース事業立ち上げに至った。
MVP高等学園は、単なる「VRで通える学校」ではない。国内最大級のメタバースプラットフォーム「cluster」を基盤とし、全国どこからでもVR空間に登校できる革新的な教育システムを導入する。松田氏は「私はメタバース空間内で仕事ができる時代が確実に来ると思っています。例えばメタバース上でのミーティングや仕事の受注などが当たり前になる未来です」と語り、次世代教育への強い信念を示している。
MVP高等学園の最大の特徴は、従来の学年制を超えた独自のフェーズ制カリキュラムにある。フェーズ1(1年次)では「心の土台づくり」を重視し、「安心できる居場所がある」ことを前提に、心理師・弁護士・社会福祉士などの多職種による心の支援プログラムを実施する。
フェーズ2(2年次)では「挑戦と自己肯定」をテーマに、自分の「すき」に向き合い、進む方向を見つける年とする。「挑戦=正解を出すこと」ではなく、「やってみること」が価値になるフェーズとして位置づけ、進路に合わせてクリエイティブ・イノベイティブの2コースから選択できる。
フェーズ3(3年次)では「実践と経験」として、学んできたことを実際の社会の中で使ってみる年とする。チームを組み、他者と関わり、社会とつながる実践の年として、大手企業や地域団体と連携し、実社会の中での協働プロジェクトを実施する。
高校生の就職活動が始まる中、2025年3月末には高卒採用の求人倍率が4.10倍と調査開始以来、過去最高を記録した。さらに内定率も99.0%と売り手市場が加速している。しかし、せっかく就職しても約6人に1人が1年以内に辞めており、高校生と企業側のミスマッチが深刻化している現実がある。
この問題の根本原因は情報の非対称性にある。準備期間が短く、しかも情報が少ないことがミスマッチにつながるという高校生の就活の特徴があり、高校生の就活では、その半数が学校から紹介された1社しか知らずに就職を決めているという実態がある。
就職情報サイトを運営する「ジンジブ」では、高校生と企業側のミスマッチを解消しようと、メタバース空間で合同企業説明会にいつでもどこでも参加できるサービスを9月にスタートした。アバターを使いアクセスするだけで、現状、全国53社190のブースに訪れることができる。
紹介動画などで企業情報を確認できるだけでなく、適職診断で自分に向いた職種の提案を受けることもできる。またAIアバターがさまざまな悩みに答えてくれる機能も搭載されている。参加した一ツ葉高校3年生は「動画も結構いいなと思った。求人票にはないし生の声も聞けるんじゃないかと思う」「一気に色んな職業を知れて、なかなかこんな機会ないので新鮮な気持ち」と話している。
MVP高等学園が目指すのは、現代教育の革新と通信制高校の課題解決だ。コロナ禍を通じて、多くの生徒が「自由だけど、つながれない」「卒業はできるけれど、記憶に残る時間はなかった」という課題に直面した。松田代表は「MVP高等学園は、単なる『VRで通える学校』ではありません。今の時代に必要な学校教育そのものをゼロから再設計し、生徒一人ひとりが『自分らしい未来』を創造できる場を提供いたします」とコメントしている。
同校では孤独感の解消をメタバース空間での日常的なつながりで実現し、学習継続の困難を個別サポートと見える化システムで支援し、将来への不安を実践的な探究学習とキャリア支援で軽減するアプローチを採用している。
MVP高等学園では、スマホやPCから気軽に登校でき、地理を超えて全国の仲間とつながることができる。自分のペースとスタイルで学び、放課後も仲間と一緒に遊ぶことで、居場所をつくることが可能だ。
生徒は自宅から、スマートフォン・PC・VRゴーグルなどを使ってメタバースキャンパスにアバターで登校する。制服や見た目の制限はなく、アバターを通じて「自分らしく」学ぶことができるのも特徴だ。clusterを活用し、授業・体験学習を中心に、クラス単位での学びやプレゼンテーションなどを実施する。
放課後はVRChatの仮想校舎に自由に集まり、部活動や交流を楽しむことができ、Discordでは担任や仲間と日常的に連絡を取り合い、レポート提出や学習の質問なども気軽に行うことができる。
ジンジブの星野圭美取締役は「高校生がより多くの情報を自ら得て企業を選ぶことにより、ミスマッチの少ない就職活動ができる。これ(メタバース就活)は高校生にとっても、受け入れる企業にとっても非常に大きなメリット。ぜひ1年生・2年生のうちから利用してもらいいろんな情報を得てもらいたい」と述べている。
このメタバース空間を活用した合同企業説明会で、学生にも企業にもメリットをもたらす新たな高校就活の形を見据えている。従来の対面型企業説明会では実現困難だった全国規模での情報アクセスが可能になり、地理的制約を超えた人材マッチングが実現される。
MVP高等学園では年数回、リアルでの体験型スクーリングも実施している。農業体験・地域協働プロジェクト・合宿型リトリートなど、「心と身体で感じる本物の学び」をテーマに五感を使った本物の学びを提供する。デジタルネイティブ世代に最適化された学習環境を提供しながら、AI・メタバース時代に必要なスキルの習得と地理的制約を超えた教育機会の均等化を図っている。
2026年4月のMVP高等学園開校と2025年9月開始のメタバース就活サービスは、単なる技術革新を超えた教育パラダイムの転換を示している。「リアルとオンラインの中間地点」をコンセプトにした次世代型教育モデルが確立されようとしている。
松田代表は「生徒の皆さんには自分のやりたいことを叶えられる力を身に着け、すべて叶えられるようになってほしいです」「そんな時代において、この学園で学んだことは必ず役に立つと考えています。この学園自体がユニークで面白いので、ここで学ぶ生徒たちが歩む未来もきっと面白くなると信じています」と語っている。
メタバースネイティブ世代の起業家が考える「リアル」と「オンライン」のあいだに存在するあたらしい教育空間は、従来の教育システムに適応できない生徒たちに新たな選択肢を提供するだけでなく、AI・メタバース時代に必要なスキルを先取りで習得できる革新的な学習環境を構築している。これらの取り組みが成功すれば、日本は世界に先駆けてメタバース教育先進国としての地位を確立することになるだろう。
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