マッキンゼーの2026年調査で32%の企業がコーディングエージェントを理由にソフト購入を見送りました。買うか作るかの判断が反転する中、コア事業の内製比率24.8%の日本企業が先に整えるべきことを整理します。
マッキンゼーが2026年8月25日に公表した「The State of AI: Global Survey 2026」に、見過ごせない数字があります。回答した組織の32%が、少なくとも1つのソフトウェア購入を見送っていました。理由は、コーディングエージェントを使えば社内で作れると判断したからです。
調査は2026年5月4日から6月8日にかけて、97か国1,719名から回答を得たもの。各国のGDP比で重み付けされています。
同調査は、EBITの5%以上をAIに帰属できると答えた層をハイパフォーマーとして分類しています。全体の6%にあたるこの層では、購入を見送った割合が約半数に達しました。それ以外の企業は31%です。
業種別に見ると、テクノロジーとヘルスケアで多く、プロフェッショナルサービス、エネルギー・素材が続きます。特殊な業界の話ではありません。
もう一つのデータを並べると、傾向がはっきりします。
社内ツール開発基盤を提供するRetoolが2026年2月17日に発表した「Build vs. Buy Report」では、回答企業の35%が過去1年間に主要なSaaSツールを1つ以上、自社開発のツールに置き換えていました。817名を対象にした調査です。
78%が2026年中にさらに内製ツールを作る予定と答えています。置き換えの対象として多いのは業務自動化と社内管理系のツールですが、CRM、BI、プロジェクト管理、カスタマーサポートにも波及しつつあると報告されました。
なぜ今なのか。理由は単純で、天秤の片側だけが軽くなったからです。
SaaSの価格は下がっていません。むしろAI機能の追加を理由にシート単価が上がった製品も多い。一方で、社内向けの業務ツールを1つ作るコストは、この2年で明確に下がりました。要件を伝えれば動くものが出てくる状態になったためです。
SaaSの料金は製品全体に対して支払うものです。実際に使うのは一部の機能だけ、というのはよくある話で、それでも我慢してきたのは、自社の業務に合わせて作り直すほうがはるかに高くついたからでした。
その前提が崩れたというのが、今回の数字の意味です。判断が変わったのはAIが賢くなったからというより、比較する金額の桁が変わったからだと言えます。Retoolの調査で置き換えの対象が業務自動化と社内管理系に集中しているのも、この理屈で説明がつきます。汎用製品と自社の運用のズレが、もっとも大きい領域だからです。
ここで日本の状況に目を移すと、前提条件が違うことに気づきます。
IPAの「DX白書2023」によれば、コア事業に関わるシステムの内製比率は、日本が24.8%、米国は53.1%でした。2倍以上の開きがあります。この差は、AIツールが安くなった程度では埋まりません。作ったものを持ち続ける人が社内にいるかどうかの差だからです。
株式会社Merが2026年8月6日に公表した調査は、日本企業のAI活用がどの段階にあるかをよく示しています。従業員100名以上の企業でAI活用を担当する548名への調査(2026年6月24日〜25日実施)で、業務でAIが動くきっかけの67.1%が「人が起動する」形でした。自動で動いているのは29.3%です。
AI利用を組織横断で追跡できると答えたのは13.0%。社内データが「整備されていない」との回答は50.7%に達しました。
社内データが整備されていない状態で内製に踏み切ると、作ったツールが参照するデータの正しさを誰も保証できません。買うか作るかを議論する前の話が、まだ残っています。
内製化の相談で最初に確認するのは、作れるかどうかではありません。壊れたとき誰が直すか、です。
コーディングエージェントが下げたのは、動くものを最初に作るまでのコストです。仕様変更への追随、障害対応、セキュリティパッチ、法改正への対応。これらのコストは下がっていません。SaaSを買うという行為には、この部分の外注が含まれています。月額料金の中身の大半は、実は保守の代金でした。
マッキンゼーの同じ調査では、約20%の組織がAIの運用コスト、特にトークン費用による制約を挙げています。ハイパフォーマー層はコーディングエージェントのコスト制約を、他の企業より約3倍高い頻度で報告していました。
作った後に動かし続ける費用を含めないと比較が成立しません。この点はトークン単価と請求額の話で詳しく整理しています。
Retoolの調査には、もう一つ重要な数字がありました。内製されたツールの60%が、正式な調達プロセスを通らない、いわゆるシャドーITとして作られていたことです。
現場が自分で作れるようになった以上、これは必然的に起きます。問題は、作った本人が異動した後に誰も中身を把握していない状態が生まれること。IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、AIの利用をめぐるサイバーリスクが組織向けで初めて選出され、第3位に入りました。
禁止しても止まりません。可視化する側に回るほうが現実的です。誰が何を作ったかを記録する台帳を1枚用意するだけでも、状況はかなり変わります。
判断基準として、以下の4つを最初に確認することをおすすめしています。
会計、勤怠、給与計算は買うべき領域です。法改正への追随を自社で背負う意味がありません。自社の売上の作り方そのものに関わる業務、他社と同じやり方では困る業務が、内製の候補になります。
SaaSの年額と初期開発費を比べると、内製は必ず安く見えます。開発費、運用工数、API利用料、担当者の人件費を5年分積み上げて、初めて同じ土俵に乗ります。
担当者の名前が出てこない内製案件は、作らないほうが安全です。属人化は内製の副作用ではなく、設計段階で決めるべき項目のひとつと考えています。
現場での内製を推奨するなら、把握する仕組みを同時に用意します。順序が逆になると、数年後に棚卸しの費用を払うことになります。
マッキンゼーは同じ調査で、AIに何らかのEBIT貢献を認めた企業が37%で、2025年から横ばいだったとも報告しています。「組織のAIへの確信は、実際に帰属できる財務リターンよりも速く育っている」というのが同社の表現です。
3社に1社が購入を見送ったという事実は、すべてを内製すべきという話ではありません。これまで自動的に「買う」に倒れていた判断に、比較可能な選択肢が1つ増えた。それだけのことです。
そして日本企業にとっては、その1つが増える前の段階、つまり社内データの整備と、AIが自動で動く業務フローの構築が先に来ます。コア事業内製比率24.8%という数字は、ツールを導入すれば埋まる差ではありません。
進め方の全体像はAI駆動開発とは?完全ガイド、費用の考え方はAI内製化のコストガイドに整理しています。買うか作るかを決める前に、自社がどちらの土俵に立てているかを確認するところから始めてみてください。
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「着信の75%を、人間が一切介入せずに解決している」 2026年7月22日、OpenAIが企業向けのAIエージェント基盤「Presence」を発表した。音声とチャットでカスタマーサポートや社内問い合わせを処理するエージェントを、企業が本番環境で運用するためのプラットフォームである。そして同社は、自社の英語電話サポート回線をすでにPresenceで運用しており、かかってきた電話の75%を人の手を借りずに解決していると明かしました。