AIコーディングが速くなっても人の仕事は減らない。要件を詰める作業と、AI時代の実績づくりにこそ価値が残る理由を、受託開発の現場感覚から整理する。経営者・エンジニア向け。
先日、ある経営者の方と打ち合わせをしていたときのことだ。「AIコーディングを使えば、もうシステム開発は外注しなくても社内で済むんじゃないか」という話になった。私はその場で、半分はそうだが半分は違う、と答えた。実際にコーディングそのものは信じられないくらい速くなっている。ただ、それでお客さんに納品できるシステムが一瞬で完成するかというと、正直そうではない。この温度差を、現場でシステム開発をやっている立場から整理しておきたいと思う。
「AIでもうエンジニアはいらなくなるんですよね」という言葉を、私はここ最近何度も聞く。そのたびに私は少し違和感を覚える。確かにAIコーディングを少し触れば、それっぽいホームページやモックは誰でも作れる時代になった。実際、私たちの会社にも営業の連絡が来ることがあり、その相手のホームページを見に行くと、いかにもAIで作ったと分かるサイトだったりする。仕上がりの粗さがそのまま見えてしまう。作れることと、任せられる品質まで仕上げられることの間には、まだ大きな距離があると私は感じている。
大前提として、私たちも実際にシステム開発をやっていて、簡易的なモックであれば容易に、しかも短時間で作れるようになった。ただ、それがお客さんに納品できる完成度、つまりほぼ100パーセントの品質のものになっているかというと、話は別だ。感覚としては、ゼロから60から70パーセントまで作るのは驚くほど速い。ところが、そこから残りの30パーセントを詰めていく作業に、逆にとても時間がかかる。データの構造をきちんと考え直したり、細かい挙動を一つずつ潰していったりする工程は、AIコーディングが速くなった今でも、地道な人の作業として残り続けている。
この体感は、私が実際に現場でシステムをつくりながら得ているものなので、外から見ているだけでは実感しにくいかもしれない。だからこそ、AIコーディングで実装は速くなったのに、人間がやるべき作業量はそこまで減っていないのではないか、という疑問を持つ人がいるのも無理はないと思う。私自身、この温度差を丁寧に説明する必要があると感じている。
具体的な例を挙げると、あるお客さんのシステムでは、入力フォームの日付形式が海外仕様と国内仕様で混在しており、AIが一気に書き上げたコードはどちらか一方の形式でしか正しく動かなかった。画面上は問題なく動いているように見えても、特定の条件を入力したときだけ計算が狂うという不具合で、これを一つずつ洗い出して直す作業には、結局のところ人の目と地道な検証が欠かせなかった。私はこうした細部を詰める工程にこそ、依頼する側が本当にお金を払う価値があると感じている。表面上のスピードだけを見て発注先を選んでしまうと、後からこの部分のやり直しでかえって時間を失うことになりかねない。
もう一つ、時間がかかる工程がある。要件を整理する作業だ。昔はウォーターフォール型で、要件を固めてから開発し、最後に納品するという進め方が主流だった。今の私たちは違う。大前提としてアジャイルで進める。お客さんの要望を聞きながら、要件定義とコーディングとテストを小さく回していき、動かしながらシステムをつくっていく手法が一般的になりつつある。
ただ、このアジャイルという進め方自体が、AIコーディングが速くなったからといって楽になるわけではない。お客さんの要望をヒアリングする時間、こういうシステムが良いのではないかと言語化する時間は、依然としてかかる。むしろ、実装のスピードが上がった分だけ、その手前にある要件を詰める作業の重みが相対的に増しているようにすら感じる。要件定義とヒアリングにかかる時間は、AIコーディングがどれだけ進化しても、そう簡単には短縮できない領域だと私は考えている。
数字で見てもこの感覚は裏付けられる。コーディング自体の速度は、私の体感では5倍から10倍くらいにはなっている。ところが、システム開発全体の納期がそのまま5倍から10倍速くなっているかというと、そうではない。大前提として速くはなっているが、せいぜい2倍程度だ。昔は半年かかっていたものが、3ヶ月ほどで済むようになった、という規模感だ。ホームページ制作のように見た目のこだわりが深く関わる案件だと、結局デザインの詰めに時間がかかり、やはり3ヶ月くらいはかかる印象がある。
つまり、コーディングにかかる時間は大幅に減っているのに、要件を詰める時間、仕様を固める時間には、依然として相応の時間がかかっている。ここが縮まらない限り、システム開発の全体の速度は、コーディングの速度ほどには短縮されない。人が何もしなくてもシステムができあがる、という状態にはまだ遠いというのが、私の実感である。
一方で、AIコーディングを使えます、と名乗る人や会社は急激に増えている。ここには注意が必要だと私は感じている。任せる側のリテラシーも問われる話ではあるが、実際に「AIでできると言われたのに全然できていなかった」という相談を、私たちも受けることが増えた。そうした案件を巻き取って作り直す仕事すら生まれている。
ここで重要になるのが実績だ。ただし、その実績は昔の実績ではあまり意味を持たない。基盤系や金融系のように手堅さが重視される領域なら、長年の開発経験がそのまま評価されることもあるだろう。しかし多くの領域では、AIコーディングを使って何を作ったか、どんな業務効率化を自分自身で実現したか、という今の実績の方がずっと重く見られるようになっている。私たちも日々営業をしているが、この実績を見せたときの相手の反応はまったく違う。これから受託開発や個人での仕事づくりを考えている人には、まず自分の手でプロダクトを作るか、業務効率化を実現するか、という実績を積むことを勧めたい。
では最終的に何が残るのか。私は、地道に詰める作業をやり切れる人だと考えている。AIコーディングによって、小さなシステムであれば多くの人が作れる時代になった。だからこそ、単に作れるという価値はどんどん薄れていく。代わりに重みを増しているのが、お客さんとしっかり向き合い、要件を煮詰め、テストをやり切るという、誰もがやりたがらない部分だ。
組織のつくり方も同じ発想で見直す必要があると私は感じている。AI時代だからといって、新卒を大量に採用してとにかく組織を大きくする、という方向はもう合わないと思っている。それよりも、AIを使いこなせるコア人材を少数集めて固め、任せられるパートナーと連携する形の方が、今の環境には合っている。最近よく耳にする「フォワード・デプロイド・エンジニア」という言葉も、システムを作って終わりではなく、業務の中に入り込んで自動化を進められる人材へのニーズの表れだと私は見ている。実際、案件の中でも一番大変だと感じるのはテストの工程だ。人が使うものである以上、最終的には人の目で確かめる作業が欠かせず、ここを丁寧にやり切れるかどうかが、そのまま信頼につながっていく。
エンジニアとして生き残るという意味では、システムを理解し、AIを使いこなし、なおかつお客さんとコミュニケーションが取れる人材が、これからますます貴重になっていく。私自身、こうした人材がどれほど少ないかを日々の相談の中で痛感している。だからこそ、ここに時間をかけて取り組む価値は充分にあると考えている。
ここまで書いてきた「詰める力」や「実績づくり」は、口で言うほど簡単には身につかない。AI駆動研究所では、こうした部分を実務の中で鍛えるための研修をいくつか用意している。
業務理解とAI活用の両方を担える人材を育てたい会社には、FDE研修が向いている。自動化を提案し、実装し、現場に定着させるところまでを一連の流れとして扱う内容だ。まずは自社のメンバーがAIコーディングを使いこなせる状態をつくりたい場合は、AIコーディング研修で、実際の開発を通じて基礎から身につけてもらっている。Claudeを軸にした自動化や業務効率化を進めたい会社には、Claude研修も用意している。
どこから手をつければいいか分からないという場合は、無料相談から話してもらえればと思う。今の体制のどこに詰める作業を任せるべきか、実績をどう積んでいくべきか、一緒に整理するところから始められる。
この内容は動画でも話しています: https://youtu.be/mrh09apbPLM
AI時代に発信が重要な理由を、1年ほど試行錯誤してきた本音で書いた。頭の中の情報は貯めるだけでは活きず、外に出してこそ自分のAIエージェントを育てる資産になる。会社のデータ化にも通じる話を、経営者や担当者向けに整理する。
AI時代に勝てる人と会社の条件を、中小企業と大企業を比較しながら整理した。中小企業はセキュリティの制約が少なく、新しいAIをすぐ試せる強みがある。個人の自動化力と浅く広い知識、そして時間の余裕が武器になる理由を、経営者としての実感から書いた。独立や自動化を考えている人向け。
ローカルAIをいつ社内に持つべきかを考えた。AIによる人類滅亡説やクラウド漏洩の話から、Mac Studio512GBの争奪戦、オフショア開発が終わりつつある現状まで、経営者として今判断していることをまとめた。社内にAI基盤を持ちたい会社の人向け。